ノンシャランではいられない,その片手。
IDチップからMP3プレーヤーまでを布地に織り込む技術を開発したインフィニオンテクノロジーズ社に,繊維業界から関心が集まっているという。この技術により,マイクロプロセッサ製品を折り込んだ洗濯やドライクリーニングが可能な衣服が実現する。
彼はなんにも持っていなかった。だが,ちょっとなにかを呟くと,彼の衣服からは音楽が鳴り始めた。またなにかを呟くと,どこかに通信がつながったようで,知らない人の声が聞こえ始めた。彼は,その声と会話をしている。データを送ってくれないか? と彼は云い,肩口を軽く押すと,胸元から前方に小さなウインドウが表示され,そこに文字列が表示され出した。
ノートパソコンもPDAも,そう,携帯電話も,彼はなにも持ち歩いていない。人の頭の中に入る情報の量には限界があって,それ以外の情報はメモ帳だったり,ノートだったり,いろんな手持ちのものに入れられていた。ノートパソコンやPDAや携帯電話などのデジタル製品は,それの代替物でしかなかった。やっぱり持ち運ぶのにはかばんが必要で,片手がいつもそれに使われていた。だが,彼の片手は,空いている。…人間は,その空いた片手の使い道をまだ知らない。さて,なにに使おうか,な?
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